和歌山信愛中学校・高等学校 校長 シスター 森田 登志子 |
すべての「羊」を大切に
長い教員生活のなかで、私がショックを受けたことがあります。クラスに大勢のやんちゃな生徒を抱えていたとき、いつも私を助けてくれる真面目な生徒がいました。その生徒が卒業式の日、「私は淋しかった。もっと先生にかまってほしかった」と言ったのです。聖書に、百匹の羊を飼う羊飼いが、一匹の迷子を探しに行く話があります。これは、みんなを見捨てない、という文脈で語られる話ですが、逆にいうと残りのちゃんとした九十九匹の羊が、心細い思いをして待っていることになるわけです。私も若かったのでそのことに気づきませんでした。一匹の羊に対してはもちろん、百匹の羊、つまり全員の生徒に対して、一人ひとりきっちりと向き合わなければなりません。信愛では、そのような教育を目指しております。
2019.11月号 にこにこ新聞掲載
努力により「奇跡」は起きる
昨今、努力を続けることを馬鹿にする風潮があります。努力を続けることは、無意味なことなのでしょうか。聖書にはこのような話があります。イエスを迎えた婚礼の宴会で、家の主人がブドウ酒をきらしてしまいました。イエスに相談すると、イエスは甕(カメ)に水をいっぱいに入れなさい、と言われました。主人がそのとおりに甕をいっぱいにすると、甕の水が極上のブドウ酒に変わっていた、という奇跡の話です。水は努力を表し、努力をいっぱいまですると、質が転換するという教えです。本校ではこのような奇跡は頻繁に起こっています。英単語一つ憶えるのに苦労していた生徒が、一生懸命に努力を続けた結果、英語の成績が向上し、それだけではなく学習そのものへの取り組む姿勢もよくなった、というように。努力をつづけることは、奇跡を起こすのです。
2019.10月号 にこにこ新聞掲載
タレント(才能)を伸ばすということ
私は、「確かにお嬢様をお預かりいたします」と入学式で申します。この「預かる」という言葉について、聖書にこのような話があります。主人が3人の従者(しもべ)に、それぞれ1タレント(以下T。貨幣の単位。才能の語源)2T、5Tを預け旅に出ました。2T、5Tを預かった者は、それを元手にさらに2T、5Tを儲け、帰った主人に「良い従者」と誉められます。他方、1T預かった者は、減らないよう1Tを土に埋め、そのまま返したところ「悪い従者」と叱られました。この話から分かるように「預かる」ということは、「そのまま」ではなく、「さらに豊かにして」返すことなのです。神の人に対する愛は「無償の愛」で、信愛教員も同様に生徒のために惜しみなく働きます。私どもは、お預かりした皆さんを、一回りも二回りも大きく成長させて、お返しいたします。
2019.9月号 にこにこ新聞掲載